2024年6月13日
FIPとその治療
猫 ラグドール
4ヵ月齢 未去勢 オス
「1週間ほど前から元気がない」 「食欲がない」
病院で見られた症状:
- 発熱(40度以上)
子猫で40度以上の発熱が見られる場合、感染症を疑う必要があります。この猫さんは元気消失と食欲低下以外の症状(下痢・嘔吐・くしゃみや咳など)は無く、消化器や呼吸器へのウイルスが感染したとすぐに分かるような所見はありませんでした。
腹部超音波において、肝臓周囲と脾臓周囲に腹水の貯留も認められましたが、臓器の間にごくわずかに存在する程度で検査のための採材は困難でした。
また、リンパ節も腫れていませんでした。
血液検査において、血清総蛋白(TP)の上昇と血清アルブミン(ALB)の低下、軽度の貧血が認められました。
腹水が採材できなかったため、血液検査で調べられる項目としてα1-産生糖蛋白(血中の急性総蛋白の一つ)、猫コロナウイルス(FCoV)抗体検査を行いました。
なぜTPとALBを測定している?
臨床症状、腹部超音波検査、血液検査の結果からFIPと診断しました。
治療には、モルヌピラビルという経口薬を用いました。
コロナ禍で人のウイルス薬の開発が進みました。同じコロナウイルスであり薬の作用機序が重なることから、猫コロナウイルスにも同じ薬が使えるのではないかと、FIPで悩む猫たちの治療薬の研究が多く取り組まれてきました。その結果、治療効果が大きく現れています。
当院でも、FIPの治療にはこの治療薬を取り入れています。
下記の血液検査結果で、治療の経過を追ってみましょう。
投与開始から1週間で、元気と食欲は回復し発熱も無くなりました。
2~3週間(18病日)の段階では、貧血と血中蛋白はいずれも悪化しているため、まだ体内の炎症は強く感染は抑えられてはいないようです。しかしこの時点で、わずかに存在していた腹水は消失していました。
その後4週間(31病日)、6週間(45病日)と経過するにつれて、いずれの数値も良化していきました。
今回は、6週間(45病日)で一度モルヌピラビルを休薬しました。
休薬後1か月(74病日)しても体調の悪化が認められることは無く、血液検査値もさらに回復いました。体重も増加し、順調に成長しているようです!
モルヌピラビルの投薬は4~12週間の投薬と症例報告に幅があります。また、投薬量や投与法(注射や経口薬)も報告により異なるため、症状や年齢、性格を確認しながら判断しています。
治療開始後は、症状が先に良化し始めてから血液検査値が良化する傾向があるようです。この猫さん以外のFIPの治療で用いたモルヌピラビルの治療経過でも、同じ傾向が見られました。しかし最終的にはいずれのFIPも完治したため、治療効果が高い薬だと感じています。
つい数年前まで、FIPは致死的な病気であり治療困難と言われていましたが、この数年で多くの猫さんが回復できるようになったことに感動です!